パソコンの盗難・紛失が発生した場合、IT担当者は端末の捜索だけでなく、情報漏えいを防ぐ対応も迅速に進める必要があります。会社のパソコンには、顧客情報や社内資料、クラウドサービスへのログイン情報などが保存されている可能性があるためです。
本記事ではパソコンの盗難対策から盗難・紛失時の初動、端末の追跡、個人情報・機密情報の漏えいリスクへの対応まで解説します。平時に必要な備えも確認し、万が一の際に迷わず対応できる状態を整えましょう。
パソコンの盗難に遭わないための対策
パソコンの盗難対策では、「持ち去らせない」「盗まれてもデータを守る」「企業側で管理する」の3つの観点から対策を組み合わせることが重要です。ワイヤーロックなどの物理対策だけでなく、自動ロックやストレージ暗号化、端末管理、持ち出しルールまで含めて備えましょう。主な対策は次の3つです。
- 物理対策:ワイヤーロックや施錠保管で持ち去りにくくする
- 設定対策:自動ロックや暗号化、追跡機能で盗難後のリスクを抑える
- 管理・運用対策:端末台帳や管理ルールを整備する
物理的な盗難対策|ワイヤーロックや施錠保管で持ち去りを防ぐ
パソコンの盗難を防ぐには、端末を簡単に持ち去れない状態にしておくことが基本です。固定できる場所ではワイヤーロックを使用し、退社後や長時間席を離れる場合は、鍵付きキャビネットやロッカーなどへの施錠保管を検討しましょう。
また、会議室や共有スペースなど、不特定多数が出入りする場所にパソコンを放置しないことも重要です。社外へ持ち出す場合は、車内など目の届かない場所に置いたままにしないというルールを設けてください。
ワイヤーロックは持ち去りにくくするための対策ですが、盗難を完全に防げるわけではありません。利用場所や保管時間に応じて、施錠保管や持ち出しルールなど複数の対策を組み合わせましょう。
設定による盗難対策|自動ロック・ストレージ暗号化・追跡機能を有効にする
パソコンが盗まれた場合の情報漏えいリスクを抑えるには、自動ロック、ストレージ暗号化、追跡・検索機能を事前に設定しておくことが重要です。
一定時間操作されていない端末を自動的にロックする設定にしておけば、離席中に第三者がそのまま操作するリスクを抑えられます。
また、WindowsではBitLocker、MacではFileVaultなどのストレージ暗号化を有効にしておきましょう。端末やストレージが持ち去られた場合のデータ保護にもつなげられます。
追跡・検索機能は、紛失前に設定していなければ利用できない場合があるため、あらかじめ有効にしておきましょう。
参照:
BitLocker の概要|Microsoft Learn
FileVaultを使用してMacのデータを保護する|Apple
管理・運用面の対策|MDM・端末台帳・持ち出しルールを整備する
企業のパソコンは、MDMや端末台帳を活用して一元管理し、従業員ごとの設定や運用のばらつきを抑えることが重要です。MDMを利用すれば、暗号化やセキュリティ設定の適用状況などを管理者側で確認できます。
あわせて、どのパソコンを誰が利用しているか把握できる端末台帳も整備しましょう。主な管理項目は次のとおりです。
- 資産管理番号
- 機種名
- シリアル番号
- 使用者
- MDMへの登録状況
- 暗号化の状態
さらに、社外へ持ち出す際の申請・承認方法や保管方法、盗難・紛失時の報告先もルールとして定めておく必要があります。端末台帳やMDMの情報は定期的に確認し、実際の利用状況と一致する状態を保ちましょう。
パソコンの盗難・紛失に気づいたら最初に行うこと
パソコンの盗難・紛失に気づいた場合は、社内への報告とアクセス制限を優先して進めることが重要です。情報セキュリティ上のインシデントとして扱い、発生状況を整理したうえでアカウントの制限やMDMによる遠隔操作などを実施します。主な初動対応は次の3つです。
- 社内へ報告し、発生状況と端末情報を記録する
- アカウント・セッション・VPN接続を停止する
- MDMで端末をロックし、必要に応じて遠隔消去を検討する
社内へ報告し、発生状況と端末情報を記録する
盗難・紛失が判明したら、情報システム部門やセキュリティ担当者など、社内で定められた窓口へ速やかに報告します。CSIRT(セキュリティ事故対応チーム)が設置されている場合は、社内ルールに沿って連携してください。
あわせて、事実と推測を分けながら発生状況を記録します。主な確認項目は次のとおりです。
- 盗難・紛失に気づいた日時
- 最後に端末を確認した日時と場所
- 端末の使用者
- 資産管理番号やシリアル番号
- Windows PC、Macなどの端末の種類
- BitLockerやFileVaultなどの暗号化状況
- MDMへの登録状況
- 保存されていた可能性があるデータ
- 利用可能だったクラウドサービスやVPN
- 実施した対応と時刻
対応内容を記録しておけば、社内調査や関係部署との連携を進めやすくなります。個人データが含まれている場合は、外部への報告や本人通知が必要になる可能性もあるため、担当部門と確認してください。
アカウント・セッション・VPNを停止する
端末を回収できない場合は、第三者による社内システムやクラウドサービスへのアクセスを制限します。対象ユーザーや端末に紐づく認証情報を確認し、必要な停止・無効化を進めてください。
たとえば、Microsoft Entra IDを利用している環境では、次の対応を検討できます。
- 新しいサインインのブロック
- 既存セッションの取り消し
- 登録デバイスの無効化
- パスワードの変更
- 認証情報の再発行
VPNを利用している場合は、盗難端末や使用者に紐づくアカウント・証明書・トークンなどを利用している製品の手順に沿って無効化します。
ただし、パスワード変更やアカウント停止だけで、すべてのサービスから即座にログアウトできるとは限りません。重要なクラウドサービスについては、個別にログイン状況や有効なセッションを確認しましょう。
MDMで端末をロックし、遠隔消去を検討する
MDMを導入している場合は、対象端末で利用できる位置確認や遠隔ロック、遠隔消去などの機能を確認しましょう。実行できる機能は、端末のOSや利用しているMDM製品によって異なるため注意が必要です。
たとえば、Microsoft Intuneでは、Windows端末でデバイスの検索やワイプなどを利用できる場合があります。一方、対応する操作はOSごとに異なるため、管理画面で対象端末に実行できる機能を確認してください。
「端末内に機密情報が保存されている」「ストレージが暗号化されていない」「回収が難しい」と判断される場合などは、遠隔消去も選択肢です。ただし、遠隔消去は端末上のデータを削除する操作です。回収できる可能性や調査・証拠保全の必要性を踏まえ、社内で定めた手順や責任者の判断に沿って実施しましょう。
また、端末がインターネットに接続していない場合は、遠隔操作がすぐに反映されない可能性があります。盗難・紛失時に判断できるよう、平時から利用中のMDMで実行可能な操作を確認しておくことが大切です。
盗難・紛失したパソコンを追跡して警察へ届け出る方法
会社のパソコンが盗難に遭った・紛失した場合は、端末の追跡と警察・施設などへの連絡を並行して進めます。まずWindowsやMac、MDMの管理画面から位置情報や端末の状態を確認し、取得した情報を記録しましょう。そのうえで、盗難・紛失が発生した場所に応じて警察や施設、交通機関へ連絡します。
Windows・Mac・MDMの追跡機能を確認する
盗難・紛失に気づいたら、OSやMDMの管理機能を使って端末の位置や状態を確認しましょう。
Windowsでは「デバイスの検索」、Macでは「探す」などの機能を利用できます。企業で管理している端末では、OS標準の機能だけでなく、MDM側で利用できる追跡・管理機能も確認してください。MDMを導入している場合は、次の項目を確認しましょう。
- 位置情報を取得できるか
- 遠隔ロックを実行できるか
- 遠隔消去が可能か
- 最後に端末が通信した時刻
- シリアル番号や資産管理番号
位置情報を取得できた場合は、表示された場所だけでなく、取得日時や画面の記録も残すことが重要です。盗難が疑われる場合は、自分で回収しに行かず、警察へ位置情報を提供してください。
なお、遠隔消去を実行すると、その後の追跡ができなくなる場合があります。端末の回収可能性や情報漏えいのリスクを踏まえ、社内の手順や責任者の判断に沿って対応しましょう。
警察・施設・交通機関へ連絡する
端末の追跡と並行して、盗難・紛失が発生した場所に応じた窓口へ連絡します。置き忘れの可能性がある場合は遺失届の提出を検討し、盗難が疑われる場合は警察へ状況を伝えて、必要な手続きを確認してください。
駅・電車・空港・商業施設などで紛失した可能性がある場合は、警察だけでなく、施設や交通機関の遺失物窓口にも問い合わせます。連絡前に、次の情報を整理しておくと説明がスムーズです。
- メーカー名・機種名
- 本体の色や特徴
- シリアル番号
- 社内の資産管理番号
- 最後に確認した日時と場所
- 盗難・紛失に気づいた日時
- 追跡機能で取得した位置情報
特に、シリアル番号や資産管理番号は端末を特定するうえで重要な情報です。パソコンが手元になくても確認できるよう、日頃から資産台帳に登録しておきましょう。緊急時に必要な情報をすぐに確認できれば、警察や施設への連絡も進めやすくなります。
個人情報・機密情報の漏えいリスクに対してやるべきこと
パソコンが盗難に遭った・紛失した場合は、端末の回収だけでなく、保存データやクラウドサービスへの不正アクセスにも対応する必要があります。端末内の情報や暗号化の状態、利用しているサービスを確認し、個人データが含まれている場合は、個人情報保護委員会への報告要否も確認しましょう。
端末内とクラウド上の情報を棚卸しする
盗難に遭った・紛失したパソコンについて、「端末内に保存されていた情報」と「端末からアクセスできたサービス」の2つの観点で情報を整理します。
端末内ではデスクトップやダウンロードフォルダ、ローカル保存された資料などを確認してください。顧客情報や従業員情報のほか、営業資料・設計資料・契約書などの機密情報が含まれていなかったかも確認が必要です。クラウドサービスについては、主に次の項目を確認します。
- メール
- クラウドストレージ
- SaaS
- VPNやリモートアクセス
- ブラウザに保存された認証情報
- ログイン状態が残っているサービス
クラウド上にのみ保存されている情報でも、端末にログイン状態が残っていれば第三者からアクセスされる可能性があります。必要に応じてアカウントや既存セッションを無効化してください。
また、サインイン履歴・監査ログ・MDM・EDRの記録も確認します。紛失後に不審なアクセスが発生していないかも調査しましょう。
パスワード設定とディスク暗号化を区別する
ログインパスワードとディスク暗号化は役割が異なるため、分けて確認することが重要です。パスワードが設定されているだけで、保存データが十分に保護されているとは限りません。
ログインパスワードは、通常の操作でOSへログインできる人を制限する仕組みです。
一方、ディスク暗号化は、ストレージに記録されたデータそのものを読み取られにくくします。WindowsではBitLockerやデバイス暗号化、MacではFileVaultなどがディスク暗号化に該当します。盗難・紛失時には、次の点を確認してください。
- ディスク暗号化が有効だったか
- 暗号化されていた範囲
- 復旧キーの保管場所
- 復旧キーを第三者が取得できる状態ではなかったか
- 紛失時に端末がロックされていたか
- OSへログインした状態ではなかったか
なお、個人データを保存した媒体が盗難された場合、パスワードが設定されていても漏えいに該当するケースがあります。そのため、パスワードの有無だけで漏えいの有無を判断せず、暗号化方式や復号鍵の管理状況まで確認しましょう。
個人情報保護委員会への報告要否を確認する
盗難に遭った・紛失したパソコンに個人データが保存されていた場合は、個人情報保護委員会への報告対象に該当するか確認します。
すべてのパソコンの紛失で一律に報告義務が発生するわけではないため、個人データの内容や事故の状況を整理したうえで判断してください。報告対象となる主なケースは次の4つです。
- 要配慮個人情報を含む漏えい
- 財産的被害が生じるおそれがある漏えい
- 不正目的で行われたおそれがある行為による漏えい
- 1,000人を超える個人データの漏えい
報告対象に該当する場合、速報は発覚後3~5日以内、確報は30日以内としています。不正目的で行われたおそれがある事案では、確報期限は60日以内です。
また、暗号化されていた場合も一律に報告不要とは判断せれません。「個人データの種類・件数」「暗号化の状態」「盗難時の端末状態」などを確認します。判断が難しい場合は、社内の法務部門や個人情報保護の責任者と連携しましょう。
パソコンの盗難に備えて初動対応と対策を確認しよう
パソコンの盗難・紛失による情報漏えいを防ぐには、平時の対策と発生後の迅速な初動対応が重要です。ワイヤーロックや施錠保管に加え、自動ロック・ストレージ暗号化・追跡機能・MDMなどを組み合わせ、端末を多方面から保護しましょう。
盗難・紛失に気づいた場合は、社内への報告と状況の記録を優先してください。個人データが含まれている場合は、個人情報保護委員会への報告要否も確認が必要です。万が一に備えて、社内の報告先や端末台帳、MDMで実行できる操作をあらかじめ確認しておきましょう。
