新入社員にはなるべく早く会社の環境に慣れて、戦力になってほしいもの。しかし、入社前後のサポートが十分でなければ、新入社員が組織になじめなかったり、早期離職してしまったりするケースがあります。採用や育成にはコストがかかるため、早期離職は企業にとって大きな損失です。
そこで近年注目されているのが、新入社員の組織への順応を促進し、力を発揮できるようにする「オンボーディング」です。適切なサポートを行うことで、離職率の低下に期待できます。
本記事ではオンボーディングの目的や具体的な施策、実施する際のポイントなどを解説します。
オンボーディングとは
オンボーディングとは、新入社員や中途採用社員など、新たに入社した社員が会社に順応し、早期に力を発揮できるようにするための取り組みのことです。乗り物に乗っていることを意味する「on boarding」が由来です。
オンボーディングは、新人研修と同義に思われることもありますが、新人研修は新卒社員向けの短期的な取り組みであるのに対し、オンボーディングは新入社員に加えて中途採用社員も対象としており、中長期的に継続してサポートするという違いがあります。
また、新人研修は業務スキルや会社のルールなどを学ぶためのものですが、オンボーディングは業務スキルだけでなく組織の文化やルールを理解して、職場にスムーズに順応できるためのサポートが提供されます。
オンボーディングの目的
オンボーディングは、採用した人材が仕事や環境に慣れて、できるだけ早く実力を発揮できるようにするものです。主な目的には、次のことが挙げられます。
新入社員の会社への順応
オンボーディングの目的の一つは、新入社員にいち早く会社になじんでもらい、早期離職を防止して組織への定着を促進することです。近年は新入社員の離職率の高さが多くの企業の課題となっています。
厚生労働省が発表した新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)によると、就職後3年以内に離職した人の割合は大卒が32.3%、高卒が37.0%となっています。
【出典】厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」
人材の採用や育成には多大なコストがかかるため、早期離職は企業にとって損失になります。離職率の高さには入社前と入社後に生じるギャップや、人間関係の問題なども関係しています。
オンボーディングでコミュニケーションを重ね、新入社員をサポートすることで、会社になじめないという問題を解決できるでしょう。
組織文化の浸透
オンボーディングは新入社員に組織文化の理解を促すことも目的としています。組織文化とは、企業が目的を達成するために組織のメンバー間で共有される行動原理や思考様式のことです。組織文化が浸透すると一体感が生まれ、チームワークが円滑に進みます。
従業員のエンゲージメントの向上
エンゲージメントとは、従業員の企業に対する愛着や思い入れのことです。入社後の新入社員は期待だけでなく不安も抱えているものです。オンボーディングで適切なコミュニケーションを取ることにより、新入社員は心理的安全性を感じやすくなります。帰属意識が高まり、会社に貢献したいと考えるようになるでしょう。
部署による教育格差を生じさせない
配属された部署によって教育格差が生じることがないよう、組織的に人材育成を行うこともオンボーディングの目的です。人事部などの人材育成を管轄する部署が用意したツールやプログラムをもとにオンボーディングを行うことで、属人化を解消し、部署ごとで内容が異なるといった教育格差を防ぐことができます。
オンボーディングで行う施策
オンボーディングは入社前、入社直後、入社後に実施するのが効果的です。それぞれのタイミングで行う具体的な施策には、次のことが挙げられます。
入社前のオンボーディング
入社前のオンボーディングは、入社意欲を高めることが目的です。特に新卒採用は内定から入社までの期間が長いため、信頼関係を築いて内定辞退を防ぐことが重要です。
入社前のオンボーディングでは、主に以下のことを行います。
- 会社見学
- 先輩社員との懇談
- 内定者懇親会
- 入社前研修
- 社内広報の送付 など
入社前に会社見学や先輩社員との懇談などを設けると、内定者の不安や疑問を解消できるため、内定辞退を防止できます。また内定者懇親会を開催することで、先輩との縦のつながりだけでなく横のつながりも作れるため、内定辞退の予防に効果的です。
入社前研修など実践的な経験ができる場を設けると、働いている姿をイメージしやすいため、入社後の業務にもスムーズに取り組めるでしょう。
入社直後のオンボーディング
入社直後のオンボーディングは、新入社員の不安を取り除き、職場になじんでもらうことが目的です。具体的な施策としては、主に以下のことを行います。
- 企業理念やルールを学ぶ研修会
- ランチ会・歓迎会
- OJT
- 各部署・施設の見学会
- 短期目標の設定と達成サポート
- 相談窓口の設置 など
入社直後は企業の文化やルール、自社が属する業界や仕事への理解を促しましょう。ランチ会や歓迎会などを実施すると、人間関係の不安を払拭するのに効果的です。またオンボーディングの対象となる新入社員向けの相談窓口を設けておくと、入社後に生じる疑問や不安を解消しやすくなるでしょう。
入社後に継続して実施するオンボーディング
オンボーディングは、中長期的に継続してサポートすることが大切です。入社後は定期的に次のような施策を取り入れましょう。
- スキルアップ研修
- 1 on 1ミーティング
- メンター制度
- 社内の各部署同士や同期などの交流会
1 on 1ミーティングとは、上司と部下が1対1で話し合うことです。週1回から月1回ほどの頻度で定期的に行います。メンター制度とは、年齢や社歴が近い先輩社員(メンター)が新入社員をサポートする制度です。
OJTと似ていますが、メンター制度は人間関係の悩みなど、業務以外の相談にも応じるという違いがあります。継続的にサポートできる仕組みを作っておきましょう。
社内の風土に慣れてきたら、同期の交流会などを開くことで視野が広がります。
オンボーディングを実施するポイント
オンボーディングを実施する際に気をつけたいポイントをご紹介します。
人事担当者がコミュニケーションを取っておく
一般的に、入社前の新入社員とコミュニケーションを取るのは人事担当者です。新入社員が疑問や不安に思っていることを人事担当者が解消し、信頼関係を築くことが入社後の成長に影響します。
小さな目標を設定する
オンボーディングは、スモールステップ法を活用して目標を設定しましょう。スモールステップとは、目標を細分化し、小さな目標を達成し続けることで最終的な目標達成を目指す手法です。
入社して間もない新入社員に大きな目標を与えると、ストレスになってしまう恐れがあります。また、大きな目標は達成するまでに長い時間がかかるため、目標を見失うこともあります。
新入社員は不慣れな仕事や人間関係でストレスにさらされているため、大きな目標を達成するのは容易ではありません。小さな目標を設定し、少しずつ大きな目標に近づいていくスモールステップ法で成功体験を積み重ねることで、モチベーションの維持につながります。
メンター制度を導入する
メンター制度は年齢や社歴が近い先輩社員がサポート役としてつく制度です。一般的には別の部署に所属する社員がメンターになるため、新入社員は業務や人間関係の悩み、不安などを打ち明けやすく、信頼関係が深まります。メンターも客観的なアドバイスが可能です。
入社当初は誰に相談すれば分からず悩むこともあります。メンター制度を導入することで、新入社員は早期に職場環境や業務に慣れ、早期離職の防止が期待できます。
まとめ
近年、多くの企業で実施されるオンボーディング。有用な人材を育成できるだけでなく、早期離職を防ぐことにもつながります。また、オンボーディングを通じて企業文化の理解が深まるため、同僚や先輩・上司との信頼関係を築きやすくなります。
オンボーディングの目的は、新入社員研修やOJTに比べると幅広く、中長期的にサポートを継続するため、教育環境の整備や体制強化が求められます。
本記事を参考に、オンボーディングの実施を検討してみてください。